美術作品というと、美術館で静かに鑑賞したり、値段をつけて評価したりする対象、というイメージが広くもたれています。でも僕は、アートの存在意義はそれだけではないと思うんです。
アートの魅力や役割や能力を、もっと社会のなかで機能させることができるのではないか。僕はそのための仕組みを、段ボールで作品をつくったり、船をつくって航海に出たりと、王道ではない方法で提示することを試みてきました。そういう活動のひとつとして、昨年、障害者支援施設にショートステイさせてもらったんです。最初はとまどいと不安が大きかったのですが、入所者の人たちと一緒に作品をつくったりして過ごすうちに、だんだんとそこでの自分の居場所がわかってきたんですよね。「TURN」は、その経験が出発点になっています。
世の中は、経済的に生産性のある人、能力のある人だけで動いていると考えがちですが、本当はそうじゃない。高齢者や障害をもっている人など、社会的弱者と呼ばれる人たちを含めたみんなが認め合い、共存できる社会にしていくべきです。そのためには、「バリアフリーになっているから、どうぞ入ってきてください」と招き入れるだけじゃなくて、こちらから入っていくことも必要だと感じました。「TURN」は、そのきっかけ作りとして、アーティストが媒体となって福祉施設同士、さらに施設と社会をつなぐプロジェクトです。
そして「TURNフェス」は、「TURN」のお披露目の機会。様々な福祉施設などでの交流を通して生まれたアーティストの作品をはじめ、施設に通う人たちとの共同制作でつくった作品も発表します。なかには来場者が参加したり、パフォーマンスのかたちをとったりするものもあるかもしれません。会場は美術館ですが、にぎわいのある場にしたいと思っています。
自分という人間は、ひとりしかいない。あとは全員他人です。生きるということは、障害の有無に関係なく、自分ではない人たちと一緒に過ごしていくこと。言葉や文字を使うのと同じように、アートもコミュニケーションの手段のひとつです。「TURNフェス」が、いろいろな人に出会える場、作品や直接の会話を通して、自分ではない人との距離が少しだけ縮まる場になればと思っています。障害者、高齢者、子供たち……みんなの居場所のひとつになるような空間にしたいですね。
海に起源をもつ僕たち人間が、もう一度海へと回帰するように、人がはじめからもっている力を見つめなおす。そこに、僕たちが忘れてしまったもの、見落としてしまっているものが見えてくるかもしれません。
(TOKYO PAPER for Culture 11号「アツカン通信」日比野克彦インタビューより転載 / 編集・執筆:平林理奈(Playce) / 写真:藤田慎一郎)
プロフィール:日比野克彦(ひびの・かつひこ)
岐阜県美術館 館長、東京藝術大学先端芸術表現科教授、アーティスト。1958年岐阜生まれ。東京藝術大学大学院修了。80年代に領域横断的、時代を映す作風で注目される。作品制作のほか、身体を媒体に表現し、自己の可能性を追求し続ける。各地域の参加者と共同制作を行い社会で芸術が機能する仕組みを創出する。